2011年11月2日水曜日

PNDと情報公開

GARMINが新しいPNDを日本国内で出すらしい。

【GARMIN nuvi 3770V】VICS対応・薄さ約9ミリ・マルチタッチ…生まれ変わった新世代PND | レスポンス (テクノロジー、カーナビ/カーオーディオ新製品のニュース) 

今までになくコンパクトでシンプルそうな外観と、ちゃんと準天頂衛星みちびきの補正信号を受信できる最新の測位性能、まだ国産据え置き上級機でも採用の少ないマルチタッチなどカーナビとしての必要な機能を大体揃えている。

実際この夏、ヨーロッパでGARMINのナビをたっぷり使う機会に恵まれて、その実力には大いに助けられた。国をまたいでもしっかりとデータベースは対応し、測位性能もダッシュボードにポンと置いているだけなのに問題なく、住所入力はどんな所でも対応、速度規制や交通規制の情報を逐一表示し、交差点ではしっかりと拡大図を示し、スピードカメラのあるエリアではしっかりと注意を促すといった具合に走ることに必要な情報に関しては非常にかゆいところに手が届く仕様であった。

去年我が家の新車にカロッツェリアの楽ナビの上位機種を載せた。ミュージックサーバーやDVD再生機能を始めとしたAV機能や3Dビューなどとにかくてんこ盛りな仕様であったが、スマートな使い方を覚えるまでそれなりの時間がかかったようにも感じられた。基本的なナビの性能自体は直接比較をしたわけではないが、少なくともGARMINに比べて家の楽ナビのナビゲーション能力がそれほど優れているとは思えない。優れてるとしてもそれはナビ自体の性能ではなく、VICSビーコンからの情報によるリルート処理の有無ぐらいだろう。直感的に使いやすいか否かの問題のほうがはるかにこの手のデバイスでは重要なように感じられた。
こういった性能の差を見るに、車上荒しの多い欧州で据え置きは持ち出しの容易なPNDに比べて不利な事は大いに関係しているとはいえ、そもそもPNDに比べてずっと高価な据え置きナビを購入する必要そのものがないということが共通認識としてあるであろうことから、欧州ではPNDが市場の主流になっているのだとも考えられる。日本でのHDDナビの標準的な価格帯は10万円台なのに対して、GARMINのPNDはむこうでは100から200ユーロで買えるのだから。オーディオもきょうびHDDサーバーなんて車内にわざわざ置かなくてもみんなiPodなどのDAPをAUXなりドックなりでオーディオに直付けして使う訳だからいよいよ据え置きのメリットはなくなってくるのだろう。事実、欧州の自動車雑誌などのスペック表には多くの場合iPodと連携可能なカーオーディオを装備しているかどうかの項目がある。これらのことからも国内のカーナビという分野は相当に孤立して競争力のないプロダクトを惰性で作っているのではないかという懸念を抱かざるをえない。

近年はVICSだけでなく、モバイルネットワーク回線を利用したスマートループなどのサービスも定着しつつあり、NAVITIMEのネットワークナビなどクラウド前提のナビゲーションシステムも国内で登場しつつある。実際スマートループは東日本大震災の時にホンダと共同でスマートループ搭載車の通行実績をGoogleマップ上に表示するシステムを公開したりと、それが従来の渋滞回避のためだけのシステムではない事を提示し始めているが、それと平行で進めているスマートフォンナビの開発などによりそもそもこれまで進化をして来なかった据え置きナビ自体の存在価値を自ら壊し始めているともいえる。実際スマートフォンの普及によって一番影響を受ける業界の一つがカーナビであるとは前から言われてきたわけではあるし、PNDのような安くて代替が容易なデバイスならともかく、据え置きナビのような高価で交換も難しいものは相当早く存在を疑問視されても仕方ないとは思える。


二年ぐらい前からグーグルは海外の都市で渋滞情報をマップに表示するようになっている。おそらく都市の警察や道路行政的な部署がグーグルと連携して、彼らに渋滞情報を提供しているのだろう。スマートフォンでルート検索をかけるとこの情報を考慮して結果を出してくれる。東京も渋滞センサーやTシステムのような渋滞を把握する設備を高密度で持っているはずであり、それらの情報をもう少しそういった民間企業と共に活用していけば良いのではないかとは常に思う。もちろん、そういった情報をすべて公開することは危機管理の観点から見れば間違いなく危険ではあると思うが、だからといって全て封鎖するのではなく、公開する情報の範囲を自分たちで積極的に策定し、危機管理自体をもう一度自分たちの手の中に収めることが結果として危機管理体制を能動的に作り上げる一つの有効な方法になるのではないかと常に思う。
とかく、最近東京電力やオリンパスが説明責任を果たしていないとして批判の槍玉にあげられることが多いが、開け広げる範囲の設定がきちんと上手にハンドリングできていないということ、そしてそのハンドリングのマズさを全部非公開にして隠すことが最も批判の対象にはなっていると思う。そういった意味では道路行政のそういった情報公開・共有へのスタンスにもそのハンドリングのマズさは見えているような気がしてならない。


今後ナビゲーションシステム自体がスマートループのような集合知システムになるのか、綿密なトップダウン情報を元に判断を行うシステムになるのか、もしくはその双方を統合して各ナビゲーションシステム同士が連携してトラフィックを分散させるなどの制御を行うようになるのかは分からないけれども、ここ10数年で多くの乗用車のインパネのインテリアデザイン据え置きナビ用に変えるにまで至ったカーナビのスタイルも終わりが近いように感じてしまうのは私だけではないはずである。