今回ヘルシンキに滞在していた三週間程度の間には多くのイベントが開かれていた。その中でも特に都市に密着していて、なおかつ長い期間開かれていたイベントがHelsinki Festivalであろう。
http://www.helsinginjuhlaviikot.fi/en/
8月の半ばから9月頭までの半月の間に音楽や現代アートを中心にしたプログラムが毎日ひっきりなしに(しかも多くの場合無料で)開催されるというまさに夢のようなイベントである。いわば完全に都市内に入り込んでいるロックフェスと芸術祭の複合なのである。
多くの場合、複合施設やバー、カフェなどでの展示やライブが多いのでそこら辺のステークホルダーたちがどんなふうに活動してこのフェスを成り立たせているのかはまだ調べていないのでよくわからない(携帯会社や新聞社、金融系の会社が主力スポンサーに名を連ねているのはあまり意外性はないが)。ただ、ビール会社が協賛に入っていて、会場となっている各カフェに公式商品として自社のビールを納入しているのはとてもおもしろかった。
今回はペーパーの提出も近かったのであんまりたくさん夜に出歩くことはできなかったのだけれども、オープニングイベントと、Kebuというアナログシンセミュージシャンのライブには行くことができた。
オープニングイベントはヘルシンキのシンボルの一つでもある港の地域を中心に行われたホーンパフォーマンス。観光船から砕氷船まで、ヘルシンキに関わる多くの船が港に集まり、各船のホーンを鳴らして音楽を奏でるという非常にかっこいいもの。その間はスオメンリンナへのフェリーもお休みして、港全体が巨大な楽器になるのだ。とても気合が入っている。海辺のサウナに遊びに行った後だったので、寒かった記憶が強く残っているけれども、パフォーマンス自体の風景も太陽が傾いた夕方の港の記憶としてとても心に残っている。
オープニングイベント以外に行ったライブがビンテージのアナログシンセとシーケンサ、アナログMTRのみで録音・ライブをしているKEBUというフィンランドのミュージシャンのもの。
比較的緩い感じの南国エスニック料理を扱っているお店でのフリーライブということもあり、敷居も低いので行ってみることにした。会場にはそれなり幅広い人々がいるものの、中心は若い男性。やっぱりこういうジャンルの音楽のリスナー層はそこら辺に固まるのは世界共通か。
Youtubeなどで見ていた印象とは異なり、彼が観客を煽ったりする場面もあるなど結構ホットな感じのライブであった。シーケンサに組まれた音の中を彼が飛び道具的にかっこいいリフを弾きながら踊る。そんな感じの自由でエキサイティングなステージ。初めて生で聞くオデッセイの音は非常に素晴らしい。気がついたら体が揺れていた。途中踊りだしていたお姉さま方に「踊りたそうだし、一緒におどりましょう!」的な感じで言われてしまったが、こちらはKebuのプレイがもっと見たいので丁重に辞退。非リアスキルの高さを遺憾なく発揮した。逆に言うと、ヘルシンキの人々は結構この手の音楽でもおとなしく聴いているのはなにか非常に興味深いものがあった。
ライブが終わり、CDの即売とサインタイムが始まる。いつか欲しいと思っていたのでCDを買って、サインを貰いに行く。とても気さくで穏やかな人で、なんだか、こうミュージシャンというよりも職人や研究者みたいな感じの物腰。写真も撮ってもらい、ニヤニヤしながら深夜の街を歩いて部屋に戻った。
帰ってCDをじっくり見て気づいたのだけれども、ジャケットに楽曲ごとの使用機材の一覧が載っているではないか。この手の気遣いは本当にワクワクしてしまう。
デジタルシンセを使わず、録音もアナログでというスタンスは我が敬愛するBOSTONのトムにも通じる物がある。やはり、こういうスタンスを取る表現者の人々はすべからく何かサウンドの面でも自分の感性に刺さるものがあるのかもしれないとぼんやりと思った。