2014年8月19日火曜日

サロマ湖畔ユースを思う

先日北海道に行った際に、宿泊したサロマ湖畔ユースホステル。
まさに道東といった具合の自然に囲まれた湖畔に、ぽつんと佇むユースホステル。
大してまじめに建築をやってこなかった鈍い自分ではあるが、宿泊をすることでその建築をじっくり摂取して、その味わいを知ることは最も心に残る接し方の一つだと常々感じている。





今回はちゃんと調べることなく訪問をしてしまったが、この建物は遠藤新とならぶライトの弟子、田上義也氏の作品とのこと。ライト風だとは思っていたけど、そのような由緒正しき建築だったとは。
夜が明けて、他の宿泊客が出て行った後にすこし館内を探検すると、実にユースホステルに対しての愛情に満ちた建築だと感じた。


エントランスの目の前にある階段は入り口から左右に男女を振り分け、そのそれぞれの踊場にはいかにもライト的なあつらえものの小さな机を持った談話室が。男女ゾーンの廊下を隔てるのは壁ではなくガラスで、秩序と開放感を重視したユースホステルの古き良き健全さを余すことなく表現しているようにも思えた。
食堂や一回の談話室もユースらしさのなかに、そのスタンダードを越えた華美でない贅沢さを感じた。





























帰ってから調べて初めて知ったのだけれども、田上義也氏は北海道でのユースホステル建築の大家でもあったらしい。この他にも幾つものユースホステルを設計しており、その一部は現存しているとのこと。
以前宿泊した美幌ユースホステルも彼の設計だったようだ。
山留めが上手く行っていないらしく、基礎のメンテが大変であるというペアレントの談。汽水湖であるサロマ湖の湖畔にあって、細かなところの痛みもひどいらしい。
明日館講堂にも似て、塔のルーバーが破損していたり、やはりライト風建築の風化の仕方は似てしまうのかも知れない。
ただでさえ北海道のメジャーな観光ルートからは外れ、人の少ないサロマにあって、この凝った建築のメンテナンスを考えると大赤字の経営のようで、近い将来取り壊しを検討しているとのことだった。
明るく、気立ての良いペアレントの口から語られる言葉は何処か寂しげで、残酷でもあった。
2004年の夏に宿泊した美幌ユースも去年の春に閉館してしまったようだし、この建築もまた一般の人がその生きている姿に触れることのできる最後の時期を迎えてしまっているのかもしれない。
昔、彼の地に走っていた鉄道もとうに絶え、そもそも旅行のあり方が変わってきている時代にあって、それまでの社会的な意義を終えようとしている一つのあたたかな建築をいと惜しくおもう。

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