2019年7月20日土曜日

2019年7月のカンボジア・ロイヤルレール

所用でカンボジアに行く機会があった。

幸い向こうでの休日もあったため、どこかに行こうと思ったものの、アンコールワットにシンプルに行くのはベタすぎるので、カンボジアの鉄道に乗ってくることにした。

少し調べたところ、数年前までは内戦の傷跡から旅客輸送は殆ど行われておらず、ここ数年でようやく少しづつ列車が走るようになったとのことである。

つまり、今が黎明期、せっかくならばと、乗りに行くことにした。


カンボジアの鉄道はプノンペンを中心に「皆実線」と「北線」の2線があり、北はタイ国境まで、南はシアヌークビルまで伸びている。

今回は、胡椒の名産地、カンポットに行ってみたかったので、南線に乗ってみることにした。



チケットを買おうとRoyal Rail(もう民営化して王立ではないらしい)のWebサイトを見ると、なんとWeb予約ができるらしい。

喜んで週末のカンポットまでのきっぷを買おうとするも、クレジットカードを受け付けてくれない。

仕方ないので、夜のプノンペン中央駅に行き、チケット窓口で購入した。

窓口のスタッフの人は英語もしっかりと話せるし、わりと夜遅くまでやっているようなので、これが一番確実だった。

ダイヤは日曜だけ2本/日。ほかは1本/日。朝と夜の便を使えば、日曜日だけはシアヌークビルまでの日帰りが可能である。
運賃はプノンペン⇒カンポットは片道7$。距離は170km程度。安い。
列車は早くなることも遅れることもあるので、30分前までには駅に着けとのこと。早く着いて待ってくれないらしい。
不安だったので、「帰りの列車が運休したら、バスとかで帰ってこれます?」的なことを聞いたら、「代替バスがでますよ。でも、鉄道は運休しませんから、大丈夫です!」と返ってきた。妙に自信あるなあ。
そんな感じで、無事にチケットを手に入れ、出発の日まで待つこととした。




当日朝、トゥクトゥクで駅まで行き、列車到着まで時間をつぶす。
ホームは一面二線の簡素なもの。ホームに入るためには改札はいらない。
駅構内には、アルストム?製の気動車を改造した客車や、古めの客車が止まっている。
空港列車の塗装が施してあるものもあったが、聞いたところ空港に鉄道を使って行く人は皆無とのこと。
遅くて、本数も少なければ、それはタクシーを使うのだろう。









しばらくすると、ビルの向こうに延びる線路の先からけたたましい警笛が。
そしてしばらくした後、このお世辞にもかっこいいとは言えない鉄道車両が現れた。





世の中に多くの鉄道車両があり、鉄道車両の見た目に対して文句を付ける人も多い世の中において、そんな種々の文句が些末なことに思えるほど強烈な見た目のこの車両。
終点シアヌークビルまでの8時間をこれで旅する人がいるという事実は、なかなかパンチがある。





そもそも、空港アクセス列車として使用するために導入したというこのメキシコ製車両がシアヌークビル便の長距離運用に入っていることも強烈な事実だけれども、こんなステップを使う空港列車があってたまるものかとも思えた。




乗り込むと、バスのよう。薄い窓枠のおかげで視界がものすごくいい。その窓枠に目を向けば、このビス打ち。2018年製の新車とのことだけれども、にわかには信じられない。メキシコの工業技術はこんなものではないのでは。。。




そんなこんなで出発。線路はメーターゲージ。時々揺れが大きい箇所もあるものの、意外としっかりとした乗り心地。
途中渡る踏切では、踏切作業員の人が遮断器を手動で下げている。本数が少ないので、それは合理的なオペレーションなのだろう。


市内を抜けると程なく、緑色の大地を走るように。肥沃そうな田畑と、小さな山が続く、とても良い車窓。大きな窓も相まって、旅情が素晴らしい。






最初の停車駅、タケウの街へ。日本人的にはPKOで自衛隊が駐留した町として名前だけは聞いたことがあった。
ここまでいくつもの駅があるというWikipediaの情報があったものの、ただの一つも見つけられなかったので、それらの駅は簡易乗降場的なもので、現在は運用されていないものなのだろう。



多くの乗客が一旦降りて、体を伸ばしたり、軽食を食べたりと休憩を楽しむ。
ついでに、車両の写真を撮った。






運転席はこんな感じ。なんと、グラスコックピット。


そうこうしているうちに列車は走り出し、次のカンポットへ向かう。
途中、いきなり工場の引き込み線みたいなところに入り、20分ぐらい停車。
しばらくして、対向列車が勢いよく本線を走り抜けていった。なるほど、こんな退避もあるのか。
この間のやり取りはすべてハンディ無線でやっていた。聞いたところによると、プノンペンからシアヌークビルまでの300km程度の長い長い1閉塞区間となっていて、日曜日のように列車の本数が多い日は手動で行き違いをしているとのこと。なるほど。

列車は30分遅れくらいでカンポット駅に到着。
隣の線には貨物列車も。





駅前にはトゥクトゥクが数台待機している。PassAppが使えるかどうかを試そうとおもったものの、待っているのも面倒くさいので、そこにいたものに乗る。料金交渉結果、少し高いかな程度に収められたので良しとする。


カンポットは、フランス時代の建物が残る、川沿いののどかな町。







胡椒の産地としても有名で、ここの胡椒は世界的にも評価されているらしい。確かに、本当に香りがよく、非常に美味しかった。
特に、生胡椒の炒めものは、今回の滞在中食べたものの中で一番美味しかった。



市内の市場をぶらついたり、地元のアートショップを覗いてみたり、博物館を見てみたりとゆったりとした一日を過ごし、気がついたら夕方。列車の時間も近い。


駅に向かい、列車を待つ。
そういえば博物館で見た、ノロドム・シハヌークがカンポットを訪問したときの写真に、カンポットの駅舎が写り込んでいたが、その駅舎は確かに今のものそのものであった。






1960年代の、まだカンボジアがつかの間ののどかさを享受していた時代、結構モダンな建築物も作られたみたいだけれども、その後の歴史の荒波に飲まれ、多くが姿を消したとのこと。
そういった意味では、尖った屋根の、どこか気取った雰囲気を持つこの駅舎は、去りし時代の空気を今に伝える数少ない生き証人なのかもしれない。
今回の日帰りカンポットをやってよかった。中国化が急激に進んで、その下のレイヤーが徐々に見えにくくなっているようなプノンペンの町にいるときよりも、きっとずっとカンボジアを感じられた気がする。
もちろん、欧米列強が入る前の姿はまた違ったものだったのだろうけど、その下のレイヤーを見るためには、今回は時間がなさすぎた。
また、いつか。


犬の親子がじゃれ合っている駅のロビーでそんな事を考えていると、徐々に日も暮れていき、列車の定刻から30分が経っていた。



そして、太陽が消えていった西から、警笛の音とともに、あの気動車がやってくる。





相変わらず見た目は良くないけれども、夕闇にマスクされて、こころなしか嫌いになれないようにも見える。
またいつかこの国に来たときには、この気動車は、カンポットは、プノンペンは、どうなっているのだろう。
プノンペンはきっと変わっているのだろう。
それを見てみたい。

カンポットは、今のままでいてほしい。

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