小さい時に見たプロジェクトXの影響からか、ユーノスコスモやFDの影響からか、むかしからずっとロータリーは特別なエンジンだという意識が強かった。中学生に入って最初に行った東京モーターショーでFDの最終型の告知と、次期ロータリースポーツのアナウンスをしていたことを覚えている。
あの時は10年近くに渡って、その次期ロータリースポーツが生産されることも、その次に来るモデルが用意されないことも想像してすらいなかった。
RX-8は今年の夏前に生産を中止した。レンタカーに残るのもそうは長くない。
先日、たまたま安いキャンペーンがあったのと、メンバーが集ったこともあって、意を決して借りることにした。
もしかしたら世界で最後の純粋なロータリーエンジン車になるかもしれないし、それに乗れる機会だって決して多くはないだろうから今回を逃したら乗ることはできないのではないかとすら思えた。
今まで乗ったクルマの中で一番パワーがあるわけでも、一番軽いわけでも、一番アイポイントが低いわけでもない。MTでもないし、ターボでもないし、正直”エキサイティング”な類なクルマではないのだと思っていた。
乗り込んでエンジンをかけるとたしかに聞こえてくる不思議なアイドリング音。
暖気が終わった時でもアイドリング回転数は1,000rpmと比較的高い所に設定されている。
地下駐車場から出るためにちょっと踏むだけでもエンジン本体が「beeeeeen」とモータのような音で唸る。この手のクルマにしては排気音が小さく、エンジンとミッションの音が室内に響くのも、実用的なスポーツたるRX-8らしさなのかもしれない。
エンジンがまっすぐに回転とパワーを伸ばしてくれるのと、前後のバランスが良い(エンジンサイズの小さいロータリーならでは?)ので、安全なところでがんばって操っても安心感のある挙動を示してくれるあたりはまちがいなく”スポーツカー”である。
返し終わった後に同行メンバーみんなが乗る前よりもクルマを好きになっていたに違いない。
高速が主体とは言え、それなりに渋滞もあり、寒い中での行程だったにもかかわらず、燃費は9km/lを超えたので、それなりに悪くない経済性能なのかもしれない。
後部座席に大柄な人が乗ってもそこまで窮屈にもならず、サイズも常識的。いろいろな面を独立させて考えればそれぞれそんなに特筆すべき要素でないものでも、ロータリーで、このパワーで、NAで、この燃費で、このサイズで、この居住性で、この走りで、この価格と考えると本当にこのクルマが技術者の努力の結晶であることはよく分かる気がする。
サーキットとかで走りこむ人や、普段から大人数でクルマを使う層には不満は多いのかもしれないが、今の日本車の主流となっている着地点とは違うところにあるバランスのとれた着地点としてこのクルマを見てみれば、ある意味とても優秀な選択肢にすら思えてくる。
実際、RX-8を街で見る機会は同世代のスポーツカーよりも圧倒的に多い。それだけ、生活に根付くことのできるスポーツカーなんだと思う。
夢をしっかりと持ったこんなクルマの後継がちゃんと作られるといいな。