この旅の最も大きな目的の一つはヨーロッパ最北端の地であるノールカップに行くことであった。小さい頃から幾度となく本で目にした彼の地の名前は、最果て好きの私の興味を掻き立ててやまなかった。
お宿の人々は親切で、実に暖かく接してくれた。少しお礼を言って出かける。
クルマに乗り、ゆっくりと走っていたら道にトナカイが。昨日もよく見たけど、今日も早速。トナカイの写真を撮った後はノールカップに向けて92号線を走る。
二日目のドライブはシートポジションや北欧流の運転の仕方に慣れてきた事もあって、比較的楽に感じる。センターラインのない広い真っ直ぐな道を制限速度いっぱいで駆け抜ける。C1の乗り方も大分掴めてきた。簡素な足ながら堅く締めてあり、結構高速域でもしっかりとしているので、北欧のスピードにもなんとか対応しているようだ。岩で出来た丘を幾つも越えて、クルマは国境に向かう。クローネも持たず、フィンランドのSIMがローミングをしないように携帯も切り、道路標識を頼りに進む。
国境に到着。当たり前だけど、パスポートチェックなどもない。味気ないけどね。税関の事務所にノールカップへの道を聞いたら、カウンターで話し込んでいたトラッカーのおじちゃんや、職員のひとやらにいた全員に「あっち!」と言われたのがとてもおかしかった。
クルマをカラショクにすすめる。ここでもスーパーの人に少し道を聞いたりして、正しいルートに乗る。ノルウェーの人はみんな優しい。ノルウェーに入り、風景は激変した。
今までは針葉樹の森が広がっていたのに、ノルウェーの景色は氷河が作ったのであろうダイナミックな景色の中にこれまたたくましく木々が生息しているような感じなのである。遥か彼方まで続く道と、大きな山々。ダイナミックだ。
E6とE69の分岐まで来る。ここからは本当にノールカップ街道。
制限速度はノルウェー一般道の標準の90キロのまま。しかしながら道は大分荒れて、狭くなっている。それなりにスリリングかつ気持ちのいいドライビングコースだ。
ちょっと飛ばすと、C1の操縦特性がよく分かる。クイックで、アンダーステアも大きい。遅いけど、シフト、ブレーキとスロットルをコーナーの度にしっかり使って日常域でスポーツしている感覚は本当に楽しい。
途中なんども車を止めてはフィヨルドや海の写真を撮る。途中虹が何度か見えた。その都度律儀に止まっては写真を取ろうとしていたのだけれど、ある一回はホニングスヴォーグに向かうおばさんと一緒に停車した。タバコを吸うおばさんと少しだけ会話を交わし、また二台とも走りだす。ノルウェーの人の運転ペースは速い。ゆっくり走る僕は置いていかれてしまった。
そうこうしているうちにすぐにマーゲロイ島へのトンネルに。話に聞いていた料金所もなく、そのまま通過。どうやら償却が終了し、無料化されたとのこと。さすが北欧、きっちりしている。
それにしても、このトンネル、相当深い。7キロの全長のうち、3キロずつぐらいは急な坂道になっていた。北の硬い岩盤の海底をくりぬいたすごい土木技術にただただ感動する。
マーゲロイトンネルを抜けてしばらく走るとホニングスヴォーグへの分岐と、その直前にあるユースホステル。もうとうとうここまで来たのだ。そのままノールカップへと足を向ける。強風と、霧雨の中ひたすら走る。
途中数分の通行止めに遭遇。何かと思えば映画の撮影らしい。山の向こうから爆音が聞こえる。解除されて進んでみると、ブリフェンの86と、オレンジのM3ほか、アメ車数台が。なんの映画だろう。もしかしたらワイスピ系かもしれない。(当時はこの程度の認識でしたが、どうやらこれはノルウェー版ワイスピのような「Børning」という映画の撮影だったようです。この間ニュースサイトにこの映画の記事が上がっていたらしく、それを発見したときはとてもびっくりしました。)
大絶景の中を進む。時折景色の中に見えるノールカップのドームが興奮を掻き立てる。
そんなこんなでを止めては進みを繰り返し、ついにノールカップに到着をする。
料金所のお姉さんと少し話し、学割で入れてもらえることに。HSSの学生証が通じてうれしい。
ついに着いてしまった。これより北にはもうヨーロッパはないと考えると本当に感慨深い。
ポーランドからきたというスズキとKTM乗りの夫妻に出会い、少し話す。シャンパンを開けていたのがとても楽しそうだった。それにしてもバイクだけどいいのだろうか?
写真を取り、しばらくぼーっとモニュメントの近くにいると、何組かの写真を撮ることになった。
ノールカップの郵便局は専用のスタンプを押してくれるらしく、それを目当てに幾つか手紙を書くためにレストランに入る。
レストランの店員のお兄さんは観光客に関するアンケートを大学から依頼されているらしく、久しぶりのサンプルである日本人に喜んでいたようだ。3から4日に一度しか日本人は来ないのだとか。それは確かに少ない。なんだか嬉しいような、少し淋しいような。
手紙を投函した後は、地下の資料館を散策。地上からでは全くわからないけど、この施設はめちゃめちゃ立派だ。地下に大きなシアターや教会、ディナースペースまである。
少し待って映画を見る。ノールカップの一年を描いた作品。やはり映像で見てもノールカップの景色は綺麗だ。しかし、それよりももっと素晴らしい景色を今日走りながら見ているのだと考えるとなかなか感慨深い。
映画を見終え、岬にもう一度立って別れを告げた後はクルマでホニングスヴォーグの街に戻る。途中、先ほどの撮影隊とすれ違ったりとなにかと面白い。
ギアをフルに使って少しハイペースで走るとこの道が素晴らしいドライビングロードだということがよく分かる。すぐに宿についてしまったのが惜しいくらいだ。
宿に着き、チェックイン。部屋が空いているらしく、厚意で一人部屋にしてもらう。ノルウェーの人はフィンランドの人にも増して、親切だ。どちらかと言うと直接的な感じで。
荷物をおいた後ちょっとだけホニングスヴォーグの街を見に出かけた。
世界最北の都市と言われるその町は、なんだか、どこか日本の三陸の港町のようにも感じられるようなスケール感で、とてもこじんまりとしている。しかしながら、スーパーもあれば銀行もあり、飛行場までもが近くにある。もちろんノールカップ観光の玄関口の一つとしての側面はあるだろうからの充実した都市インフラなんだろうけど、そのインフラがこうした小さな町の活力に与えている影響はきっととても大きなものなんだろうと思ってしまう。
宿に戻って荷物をおいて一段落した後。コモンスペースに行くと、日本から来たという青年が。
よく考えて見れば数日間まったく日本人と会わなかったなと思い、先ほどのアンケートを渡された際の店員さんの言葉の意味を実感する。
彼は名古屋のある大学の医学生らしく、翌日アルタまで行こうと考えているがバスの便がよくなく、困っているとの事だった。幸い自分もアルタに行きたかったので、少しだけ一緒に旅をすることにした。
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